令和7(2025)年度 第1回教点連セミナー報告
日時 | 令和7(2025)年5月31日(土)13時30分~15時30分 |
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場所 | 新宿リサイクルセンター&オンライン |
参加者 | 会場参加者12名、オンライン参加40名 |
テーマ | 「インクルーシブ教育の点字教科書保障を考えるー点字製作の保障と製作調整への対策」 |
1.趣旨説明と問題提起 野々村好三(教科書点訳連絡会理事長)
テーマ:「どこで学んでも、点字教科書で当たり前に教育が受けられる環境を目指して~~一般校の視覚障害児童・生徒用点字教科書の現状と<コーディネート>も含めた点字教科書の公的保障」の必要性
① 一般校で学ぶ視覚障害児のこれまでの歩みと本会の発足
昭和50年(1975年)、全国で6人の視覚障害児が一般校に入学。当時、国による点字教科書保障制度は存在せず、教育委員会ごとに対応がバラバラだった。点字教科書を保障できないことを理由に、小学校入学を拒む市町村もあった。その後、まずは拡大教科書の運動が実を結び、拡大教科書に続き、2004年度後期から一般の小・中学校で学ぶ視覚障害児の点字教科書無償給与が開始された。2005年「教科書点訳連絡会(教点連)」発足。製作状況の情報共有と製作調整を担う。
② 一般校の点字教科書の現状
点訳に適した教科書を採択している盲学校用教科書においてすら多くの苦労があるが、一般校ではなおさら。ビジュアル化が進んでいる教科書の点訳は点訳者に委ねられる負荷が大きい。また、専門分野の点字表記の知識と技能が必要となる。
③ 教科書の製作調整の必要性
全体像が国から示されておらず、点字教科書の依頼がある都度、対応が必要。また、依頼のある学年・科目が多岐に渡る。また、制度・手続きについて、教育委員会への説明が必要になるケースが少なくない。
④ 「コーディネートも含めた点字教科書の公的保障」に向けて
製作コーディネートがなければ教育委員会の負担が増し、子どもたちが望む教育が受けられない危険性もある。子どもたちの"今"は一度だけ、待ったなしの課題。関係団体のお力添えをいただきながら「コーディネートも含めた点字教科書の公的保障」に向けて共に取り組みたいと考えている!
2.三宅隆氏(日本視覚障害者団体連合常務理事)
テーマ「視覚障害児のインクルーシブ教育を支える点字教科書の保障」
① 始めに
日視連は1948年結成、視覚障害者の自立と社会参加を推進するため活動してきた。実際に実を結んだものもあれば、今なお継続して要望活動をしているものもある。
教育においては「障害者権利条約」を日本も批准し、その権利条約に基づく日本政府に対する総合所見が示された。それを受け、視覚障害児の教育環境整備を組織的に検討し進めていこうとしている。
② 日視連将来ビジョン推進委員会 総合所見に関する検討 最終報告(2024.12.19)
「将来ビジョン推進委員会」は視覚障害者の未来像、将来像をどうあるべきかを検討する委員会で、その中に教育に関する小委員会がある。そこで、「障害者権利条約24条」に基づく教育に関することで総括所見の内容が、果たして視覚障害者・視覚障害児に当てはめたときに、果たしてこの通りに進めていいものか、どういう風に考えていくべきか議論している。
総括所見の中では、いわゆる地域社会で障害者も平等に暮らせる、教育を受ける、仕事ができるということを進めていかなければならないと示されている。日視連としては、この考え方については全く賛同する。
これまで視覚障害児童生徒の場合は、選択肢としては盲学校から特別支援学校の方に進むことを余儀なくされていた時期があった。そうではなく、本人やその家族が望むのであれば、その望む学校にまず進めるというのが大前提になると考えている。地域の学校に通いたいのであればそこの学校に進めるように、盲学校に通いたいのであれば盲学校の方に進む、これが本人や家族の意思によって選択できるということが大前提だと考える。
点字教科書に関してもどこの学校に通っていても、児童生徒に関しては、教材という面では保障されなければならないと考える。また、本人が学びやすいような環境整備というのは、人材なり、建物なり、総合的に考える必要ある。
日視連では「インクルーシブ教育推進懇談会(仮称)」を作り、そこには教育に関わる人、団体に入っていただき、国に対して行動を起こすような提案提言をしようと今進めている最中だ。教点連にも教材の提供という面で助言をいただきたい。国の方に日視連を含めた連携した団体からの意見という形で要望し、その教育を受ける本人のための環境、あるいは人的経済的基本的な整備、合理的配慮の提供がしっかり行われるように、提言し、進めていきたい。
③ 今後に向けて
以上は、今後に向けての提言だが、早期に要望を続けていかなければならないもの、中長期的なことも含めて考えなければならないものがある。
日視連令和7年運動方針(抜粋2025.5.26採択 資料2)にもあるように教育に関して専門委員という専門的な懇談会を立ち上げて検討すると具体的に示している。これは今年度、早速進めていくことになる。
視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本計画(案第1期)に対する日視連のパブリックコメント(2020年5月)(資料3)で教材についてどう進めていったらよいか示している。点字教科書も含めて、専門的分野のものを点訳することに関しては、ボランティアの無償による努力で進めていくのには限界がある。特に専門的なものを早期に提供しなければならないものは、有償になっても、専門的なものを作る人を何とか確保しなければならない。また、その中には、人だけではなく、必要な購入資材も入っている。だから、点字教科書を作る上での必要となってくるものに関しては、その必要となる経費もちゃんと保障しなければいけない、と、このコメントの中に入れている。
日視連としては基本的に最終的なインクルーシブ教育を目標としているが、現状の一般校であろうと盲学校であろうとその本人家族が望む教育環境においては、点字教科書を含めてしっかりした保障をしていかなければならないというスタンスには変わりはない。今年度早速、懇談会を設置して、要望を早期と中長期に分けた議論を進めていこうと考えている。
教点連への要望として、点字教科書をコーディネートしてきた立場から、2004年の頃から変わってきている状況の根拠となるデータを集めてほしい。点字教科書を作る上でのかかる費用、人的な費用や期間、どのくらいの期間時間で作らなければならないのか、どういう環境を作らなければないのかも含めて、資料をまとめておいていただきたい。それを基に教点連だけではなく日視連も含めた団体によって、文科省に要望していくことは可能になってくるかと思う。ぜひ教点連で裏付けとなるようなデータ収集を今後もお願いしたい。
私達自身も視覚障害児童生徒が 一刻も早く必要な教科書資料が提供され、必要な人材、具体的には支援員とか、訓練員とかの配置がされ、学校の施設のハード的なバリアフリーが遅れているのであればそれも解消されるように進めていこうと考えている。
3.竹下亘氏(社会福祉法人日本ライトハウス常務理事 特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会参与)
テーマ「点字教科書の保障を支える点訳ボランティアの今後について」
始めに
全視情協がこの問題にもっと関わっていく必要があると思っているので理事長にお願いして全視情協参与の名前を使っている。また、情報文化センターに勤務し点字教科書の製作にも関わっていたので、非常に関心のあるところ。1980年代大阪などで地域の学校に通う生徒さんが出てきたときに、その点字教科書の制作にいろいろ関わりあった。そのうえ、個人的なことだが、1980年から大学で点訳を始めたが、そのときちょうど点字を使用する学生さんがいて教材の点訳からスタートしたということがあってこの大問題には非常に関わりも深く関心深い。
趣旨
- 全国の小・中学校で学ぶ点字使用生徒の教科書保障は、当事者と家族や支援者が求め、実際の作業は点訳ボランティアが支えて来た。
- 点訳ボランティアの知識と技術、熱意と努力は並外れたものだが、熟練者が増える一方、高齢化が進み、継承者が漸減している。
- 地域の学校で学ぶ点字使用生徒の学習を保障するには、「点訳教科書」の提供について、視覚支援学校と同等の公的補助が必要である。
注:この発表では、点訳ボランティア製作の教科書を「点訳教科書」とします。
① 地域の小・中学校で点訳教科書を使用する視覚障害児・生徒の現状
全国の点訳ボランティアの現状
- コロナの影響で減少しているのではないか。
- 新規の講習受講者・認定者・活動者数が減りつつある。
- 点訳図書の製作点数も減っている(頁数や内容は不明)。
- 校正者の増は、熟練者、点訳から校正作業へ移る人が漸増しているのかも。
- 点字図書館2館の実態として、受講者減少と60歳以上の受講者の増加は顕著。
- この他、またこの中に、地域で活動する点訳ボランティアが多数おられるが、全国各地の点訳グループからも解散や高齢化による縮小の情報が聞かれる。
② 点訳ボランティア(活動)の今後~点字教科書の保障を進めるために
- 全国では点字図書館と公共図書館、社協、地域活動で、1万人を超える無償のボランティアが点字図書・雑誌、教科書等の製作を全面的に担っている。
- 日本の点訳ボランティア活動は世界に誇る素晴らしい文化であり、高い技術と明確なアイデンティティを持ったボランティアはかけがえのない存在であり、今後も点字文化を支え、牽引してもらいたい。
- しかし、現在、点訳ボランティアは社会状況の変化~ボランティア活動の多方面への発展や、ボランティアの中心である女性の就労への意思と必要性等に伴い、高齢化と漸減傾向が進んでおり、この流れは一定避けがたいと思われる。
- そもそも、根本的な問題は、視覚障害者の読書と情報利用、何より教育を受ける基盤である教科書の製作が、ボランティアの無償奉仕に依存しており、国や自治体の公的保障が全く不十分であることである。
点字教科書の保障を実現するために求めるべきこと
- 点字教科書製作費に対する公的補助を視覚支援学校と同等に引き上げる。それにより、施設・団体等が点字教科書を安定的に製作できる基盤を作るとともに、点訳を職業に出来る専門技能とし、若年から中年層の参加を募る。
- 点字の位置付けを高め、点字の市民権の確立・浸透を図る。
具体的課題:点字を公的文字とする法制化、点字版「選挙公報」発行の法制化、自治体による点訳奉仕員養成講習会開催の義務化、自治体の「広報」点字版発行の義務化、点字技能士等の資格の格上げ等。
4.総括
一般校に在籍する児童生徒の点字教科書保障への道
- 必要な編集がなされた一般校用点字教科書製作・供給を保障する。
(盲学校用点字教科書製作施設が一般校用も担当できるよう環境整備を) - 点字教科書の編集製作人件費に見合う金額の保障を。
(現状はボランティア頼み。教科書は保障となれば、副読本や参考書等) - 手続きを簡素化し、製作経費が確実に支払われること。
(今は、「学校等を経由して都道府県教委が申請」しないと支払われない。) - 「他の点字教科書使用経費」等が当面必要な場合、合わせて認めること。
(教科書改訂年は、製作量が膨大になり、間に合わないケースが続出。4月当初には間に合わないが、途中で製作できたときの教育保障を!) - 点字教科書製作の調整に必要な要員人件費を保障すること。
- 必要な専門性のある点字教科書編集製作の保障
点字教科書の無償給与は決まっているが、それを保障する制度が非常に脆弱である。点字教科書そのものを誰が作るか、どうやって作るかが関与されていない。そこが問題だ。拡大教科書は2010年に原則として原本の出版社に製作を義務付けているが、点字教科書は20年間製作保障がされていない。
本来は特別支援教育に関わる先生方が関わった専門的な見地から、点字教科書が作られないといけない。それができていないのは教育を受ける権利が侵害されていることに他ならない。それを打開するために、日視連を初めとする他団体とも連携し要求していきたい。
講演後、会場やオンライン参加者からも活発な意見交換が行われました。
三宅隆さん、竹下亘さん、ありがとうございました。