特定非営利活動法人 全国視覚障害児童・生徒用教科書点訳連絡会

2023年度第2回(通算第37回)セミナーのご報告

テーマ 様々な生徒に分かりやすい点字楽譜の表現
~音楽の点字教科書に必要な基本とは~
日時 2023年12月9日(土)13:30~15:30
場所 Zoomオンライン(ライブ)
講師 加藤 俊和 氏(盲学校用 点字音楽教科書編集者・点字楽譜利用連絡会副代表)
参加者 70名

日本点字委員会委員そして1992年国際点字楽譜会議日本代表の加藤氏に、点字教科書における点字楽譜の扱いとレイアウトというテーマで幅広く講演いただきました。

1.点字楽譜の世界と日本の動向

(1)戦後の日本の音楽教育と点字楽譜

1929(昭和4)年、欧米の関係者により点字楽譜統一会議が開催される。

1954(昭和29)年、世界点字楽譜統一会議が開催され、日本から鳥居篤治郎氏・岩橋英行氏が参加。日本で『世界点字楽譜解説』発行、その後の日本の点字楽譜の基本となり、音楽点字教科書に反映され現在に至る。

1984(昭和59)年、文部省編『点字楽譜の手引』発行(以下、『手引』)。

(2)今後の日本の点字教科書の点字楽譜表記

令和5年10月、文科省編『点字学習指導の手引改訂版』発行。

  1. 和音の「音符法」の継続使用
  2. 楽譜中にアルファベットだけでなく日本語表現も含む表記による対応

2.従来の日本の点字楽譜記号からの変更

(1)音部記号の扱い

点字教科書における点字の音部記号
ト音記号 ⠜ ⠌ ⠇
ヘ音記号 ⠜ ⠼ ⠇
ハ音記号 ⠜ ⠬ ⠇

(2)ダル・セーニョ

D.S. ⠶ ⠙ ⠄ ⠎ ⠄ ⠶

(3)音程記号の「同度記号の廃止」について

1度(同度)⠇ の記号は廃止、8度の音程記号 ⠤ にオクターブ記号を付ける。

(4)用語の名称

*オクターブの記号(音列記号)

幹音の音符に前置してオクターブの違いを表す「音列記号」は、「オクターブ記号(音列記号)」とする。

*「集合音符」と「部分け内分け」

これらの用語はなるべく使用せず、「集合音符」は「16分音符以下のグループの表示」、「部分け内分け」は「和音のパート分けの記号と表示」などと説明する。

3.日本独自の用法

(1)和音の音符法の扱いと音程法

点字教科書では児童生徒が直接学習するための楽譜は「音符法」、そうではないピアノ伴奏譜等については「音程法」で表記したりする。

(2)文字符「⠜」の制限と「⠶ ~ ⠶」の使用

楽譜中で ⠜ は、記号・略語の範囲内にとどめ、日本語表現を含む発想などの用語については⠶ ⠶で挟む。

(3)点字教科書におけるコードの表示

*日本におけるアルファベット表現によるコード表示

  1. コードの前置符は ⠠ ⠤ とする。
  2. コードを示すアルファベット大文字には、それぞれ外字符 ⠰ を付すことで「コー
  3. ドを明示」し、大文字符は省略する。
  4. コードを示すアルファベットに付随して表示されるアルファベットは外字符なしで続ける。数字には数符を付ける。+ - / は日本の数学記号 ⠢ を ⠔ や ⠌ とする。
  5. メジャーを示す M などや根音を示すアルファベット大文字は、大文字符のみ付す。
  6. 1小節内は続けて書き、小節と小節の間は一マスあける。
  7. 1小節内の連続するコードのリズムは均等割とする。
  8. 1小節内のリズムが均等ではないコードは、「コードが前に同じ」の記号は、⠤ ⠶ ⠤ ⠶ ⠶ などによって表し、リズムを表現する。(さらに複雑なリズムは「注」でリズムを表現する。)

(4)日本語の歌曲の「⠤」などの記号

歌曲の歌詞と音符の対応、歌曲のスラーなど(『手引』p.63)

(5)(→)(←)主旋律の範囲を示す記号

主旋律始まり ⠶ ⠒ ⠒ ⠕ ⠶ 主旋律終わり ⠶ ⠪ ⠒ ⠒ ⠶

(6)小節番号による繰り返し

日本語の数字表現を用いる。⠼ ⠂ ⠤ ⠤ ⠼ ⠦(『手引』p.50)

(7)日本の注記のレイアウト

曲頭の注、曲中のページ区切り全マス棒線下の注、曲後の注。原本ページ数の教科書表示

4.点字楽譜の用法の諸注意

(1)オクターブ記号と行移し

行移し(前の行からの続き)の音符にはオクターブの記号は不要。

(2)複縦線

大きい区切り目などに限定して用いる。

(3)臨時記号

「臨時記号の有効範囲は1小節内」が原則、必要な場合は注記する。

(4)記号・略語と「半マスあけ」

点字楽譜においては、「⠜ で始まる略語」の後のピリオドは ? で表示する。

「記号」であれば ⠜ で始まっても、後に ⠄ は不要。

5.点字音楽教科書のページレイアウト

(1)教科書等のレイアウト

点字教科書の、特に低学年用の場合、生徒用ではない楽譜などが多く含まれているので、生徒が用いる部分をしっかりと選んで点訳する。

「生徒用でない部分」については、巻末にまとめるか、少なくともその曲の最後に入れるなど、配慮が必要。盲学校用点字教科書では、伴奏譜は巻末にまとめ、中学教科書では音符法で、高校教科書では音程法で記している。

(2)歌の楽譜のレイアウト(歌詞行と楽譜行)

  1. まず、歌詞を書く。
  2. 次に、「主旋律」の歌詞とその音符のみを取り出して書く。
  3. 最後に、いろいろと付けた楽譜を書く。合唱の場合は、そのあとに、他のパートを書く。日本語と原語が混在している楽譜は、日本語の曲としてと、原語の曲として、と大きく分けて点訳する。
  4. 繰り返し記号が使われ、繰り返したあとのリズムが異なり小さく書いてある部分が多いような楽譜では、点字楽譜では繰り返し記号を使わず、歌う順序どおりに書く。

(3)コードの扱いとレイアウト

コードも一つのパートとして取り出して書く。

(4)各種楽譜のレイアウト

器楽曲においては、生徒が演奏する楽器ごとに分けて点訳する。

「総譜の形式」が必要な場合は、楽器別の楽譜の後に加える。

盲学校用点字教科書のリコーダー「閉じ、開け、半開け」は「⠿ ⠭ ⠶」

以上が講演内容となります。

最後に記号等について質疑応答があり、点字楽譜の終わったところは必ず ⠣ ⠅ にする等説明がありました。

また、点字教科書に用例も含めた点字楽譜の解説を載せることは重要なので、準備を進めているとのことでした。

具体的にわかりやすく教えていただき、加藤さん、ありがとうございました。

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