特定非営利活動法人 全国視覚障害児童・生徒用教科書点訳連絡会

2022年度第3回(通算第35回)セミナーのご報告

テーマ 「小中学生にわかりやすい点字教材を届けるために」
~副教材製作の現場から~
日時 2023年2月25日(土)10:00~11:30
開催方法 Zoomオンライン(ライブ)
おはなし
  • 濵﨑雄三氏(大阪市立早川福祉会館点字図書室)
  • 山本有美子氏(パソコン点訳会)
参加者 100名

教科書点訳連絡会の取り組みは点字教科書のことが主体ですが、実際の教育現場では副教材も授業の中で多く使われている現状があります。その副教材の点訳がまだまだ不足していたり、製作上の課題がたくさんあるということで、今回、副教材をテーマに取り上げました。

まず濵﨑さんからお話しいただきました。

濵﨑さんは先天性の全盲で点字使用、中学までを盲学校で、高校・大学を地域の学校で学び、職業訓練を経て、10年前から大阪市立早川福祉会館点字図書室で点字製作担当のお仕事をされています。

高校では初めての視覚障がいの生徒でしたが、教科書や必要なものは点字で準備され、教材比率は、教科書半分、副教材半分。各教科の先生とは読み上げソフトを使ってメールで直接やり取りし、学ぶ環境を整えてもらわれていました。また全盲の先生がおられ、先生を経由してボランティアの方に点訳をしてもらったり、全部を点字ではなくパソコンも併用したらよいとアドバイスを受けたので点字ディスプレイを活用されるようになりました。数学は半分を1対1の授業で、半分をクラスで勉強したこともあり、現国の漢字の書き取り問題では、その漢字の含まれた語句を作りなさい、意味を説明しなさい、などの問題に差し替えられ、他の生徒と同じ時間に小テストを受けるという配慮もなされていました。

現在の点字図書室には昼のグループ・夜のグループ合わせて160名の点訳ボランティアがいて、2017年度から複数校のテストや副教材の点訳を、個人からの依頼という形で用紙代以外は無料で受けられています。高学年が多く、毎月の国語・算数・理科・社会・英語のテスト問題や副教材の国語・算数のドリル、夏休み・冬休みの宿題の点訳もされています。

小学生の場合、先生と小まめに電話でやり取りし、原文どおりの点訳ではわかりにくいので、先生がこの問題はこう差し替えてなどと書き込みをしたり、点訳ボランティア側からも変更点のメモを付けて納品されているそうです。

中学生の教材は今年度から始め、量が多いので、期間等の関係で受けられないこともあるそうですが、主に国語・数学・英語の副教材、またチャレンジテストの問題等を点訳されています。

地域の学校で学ぶ生徒は最初、点字は苦手でも点図はおもしろがって触るので、エーデルをできるだけ入れてほしいそうです。点図から入って点字を学んでいくこともあるからです。そのために、ボランティア対象のエーデル講習会も開かれています。

テスト問題は製作スケジュールがタイトですが、特に最近は郵送にも時間がかかるため、スキャナーで撮ってPDFのデータでやり取りし、製作日数を少なくする工夫もされています。生徒の希望を直接聞くのは難しいですが、先生や親御さんから聞いて改善していくこともできるのではということです。

原本のデータがもらえるとよりよいのですが、先生が原本に書き込まれる場合が多いので、一概にデータがあればよいとも言えないかもしれず、また先生とも連絡は電話に限られるので、深い所まで相談しにくい面もあるそうです。

課題としては、ボランティアの確保が難しいことと、教材点訳に力を入れている他団体の情報が得にくいことを挙げられました。テストや副教材に特化したネットワークがあると、先生や教育委員会、点字使用者や点訳者がお互い交流でき、重複教材の情報も先生に提案できます。

また、新しい教材点訳のボランティアを育てるには、すでに点訳されているデータで勉強するのもよいのではということです。

高校になってから漢字の形を伝える必要があるかという質問には、形からは難しいかと思うが、同音異義語等を音声から勉強するといいかもしれない、ただ、小学生のドリルでは、上にエーデルで大きめに漢字を書いて意味などを下に記すものも作製するが、使い方やその字の意味を知るには大事な役割があると思うということでした。

次に山本さんにお話しいただきました。

パソコン点訳会は大阪府池田市に2011年に発足し、会員は5人。山本さんが学校でプリントを点訳するお仕事をされているので、その学校からの依頼を受け、小学校の教材や8年前からは中学の副教材・問題集も手掛け、今年度は中2の理科・数学、中3の理科3冊・数学2冊の7冊と理数の定期テストを点訳されました。今年度から市町村から頼まれる点訳は有料とし、またプライベート点訳では中学の塾の問題や市販の問題集の点訳もされています。

学校から出版社にテキストデータの提供を依頼したところ、7冊のうち5冊もらえたそうです。テキストデータがないものは、スキャナーで撮りgoogleドライブにかけてテキスト化し、自動点訳を。先生からはデータでの提供がほとんどなので自動点訳にかけることができます。

また関連した教科書・テスト・問題集は同じところが製作すると生徒もわかりやすく、生徒にはデータと紙の両方提供できるとよいということです。

図は全盲の方に触読してもらい改善されているそうです。例えば大点と中点が接近しているとわかりにくいので大点の前後の中点を抜いて大点を際立たせる、墨字で塗りつぶしてあるところを点図でも塗るとわかりにくいのでできる限り塗らないなど。生徒に触ってもらって対話することも大事だそうです。

他に、漢字学習では、低学年は漢字のしくみを勉強するためにもレーズライターで書いてみるとよい、また、漢字ドリルに載っているクイズなど、提供する方は全部点訳するのが基本だと思っている、図は文の後、注は最初に書いてから図を入れている、数学・理科は片面で作製している、とのことです。

課題としては、市教委が点訳ボランティアをなかなか探しづらいので、点訳を相談したりコーディネートする窓口が必要だと思う、重複点訳を避けるためにも情報交換する場になる、一方、市教委にも先を見据えた点訳料の予算化をお願いしたいとのことです。

パソコン点訳会では、初めて点訳する人には宿題として持ち帰ってもらい、月2回の集まりで読み合わせや相談・校正をしている、初めてのグループもまず引き受けてやってみて成長していく、第一歩はどんどん踏み出していくことが大事だと思うということでした。

濵﨑さんには、教員との連携の大切さ、ニーズが多様化していてとりわけ点図に対する需要が多くなっているというお話を伺いました。山本さんからは、最近では問題集のデータを入手できると伺い、喜ばしいことだと思います。点訳者が減っている中で、点訳者の貴重なパワーをより有効に活かしていただくためには、できる限りの省力化を考えないといけませんが、原本データの活用もその一つです。少し余裕ができた分を専門点訳やよりわかりやすい点図の作製、より読みやすい書式形成に、知性・感性を振り向けていただければ、よりよい点字教材を提供いただけるのではと期待しています。

濵﨑さん、山本さん、貴重なお話をありがとうございました。

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