特定非営利活動法人 全国視覚障害児童・生徒用教科書点訳連絡会

2022年度第2回(通算第34回)セミナーのご報告

テーマ 見る図と触る図の大きな違い〜点字教科書における触図作成の基礎知識
日時 令和4年12月3日(土)10:00〜11:45
開催方法 Zoomオンライン(ライブ)
講師 加藤俊和氏(理科点字表記解説2019年版「図表について」担当)
参加者 67名

教科書点訳において理数系教科だけでなく、社会や技術・家庭・保健体育など幅広い科目で触図が必要となります。教科書のビジュアル化がますます進む昨今において触図作成は頭を悩ませる課題です。そこで今回のセミナーは、触図の基礎知識を取り上げました。参加者の多くが、実際、点字教科書製作に携わるボランティアの方でした。

今回のセミナーに先立って参加者全員にエーデルで作成した触図8枚を点字プリントし送付しました。講師の加藤さんは講義の冒頭で、今回のセミナーでは実際に触図に触れて触図の特性を理解してほしいと点字プリントした触図を複数用意した意図を強調され、「見る図と触る図の根本的な違い=触読の特性から求められる配慮と工夫」について具体例を交えて講義いただきました。

前半は「触図を理解するということはどういうことなのか」という最も基本的な事柄について説明がありました。

目で見る図と異なり簡単に素早く理解できるものではないことを理解し、そのうえで作成することが必要であることを強調されました。

次に触図には「遠近感」「立体視」がないことについて触れられました。触図は形や配置を触って把握することができますが、「見る図の遠近感、立体感」は眼で見るときだけのもので触覚にはなく、立体を表す斜めの線も説明と学習がなければ理解できないものであることを説明されました。

続いて触図で伝えうる情報は原図の数千分の1であることに触れ、墨字の図をそのまま盛り上げても、その情報をすべて伝えることは不可能であり、触覚で理解できる重要な情報に絞る必要があると述べられました。つまり触図を作成する第1歩は図形に載せる情報を必要最小限に厳選することだと説明されました。

触図の読み取りの力は視覚障害者個々で差が非常に大きいことにも触れ、視覚経験(目で見た経験)があるかどうかという単純なことではなく、図だけで理解する見る図と異なり触図に添えられている点字が読めることも、触図を理解する上で重要になるとのこと。

これらの触図の基礎については日本点字委員会発行の『理科点字表記解説 2019年版』(p67〜91)第5部「図表について」に記載されているとの紹介もありました。

後半は前半の内容を踏まえ、具体例を用いて「何をどのように触図化する必要があるのか」についてお話しいただきました。

墨字の教科書や資料には、図や写真、マンガや動画が満載です。これらはまさに「見れば分かる」ものです。「触る」点字では、「一触で分かる」はずはなく、「言葉で理解、触図で補う」が原則のため、文章で理解できる場合は、図を省略するということを念頭に置くことが必要だとのこと。「墨字を忠実に点訳」とは墨字で表されている図や写真・イラストを、すべてそのまま触図化することではなく、「見る図の内容を触覚で理解できる図にすることが「内容を忠実に伝える点訳」だと説明されました。触覚で理解できる図であれば文章との相乗効果で内容を深く理解することが可能となるとのこと。

教科書製作の際、多く用いられる触図作成ソフト「エーデル」についても、目で見た印象と触覚的な印象では異なることを説明されました。点・線の区別は、3(大・中・小の点)×18(点間の種類)=54種類ではなく、触感上は、せいぜい4、5種類であるということを強調され、だからこそ触図化する際、墨字の図の中の何を触図化するかというデフォルメ作業が最も重要なのだとのことです。

事前配布した資料はエーデルで作成したものだったので、それらや他の原図を例示しながら、グラフの線の重なり方を簡略化したり、実験道具の不要部分を省略したり、引き出し線を省いたりなどの事例を紹介いただきました。

質疑応答では触図化するものとそうでないものをいかに見極めるかについてや、宇宙誕生の素粒子の触図化についてや、線と文字(点字)との距離感についてなど多数声があがりました。そこでも触ることで理解できることを念頭に回答していただきました。

触図のセミナーの場合、具体的な方法論に偏りがちですが、加藤さんのお話は「触る」ということがどういうことなのか、という前提を繰り返し分かりやすい表現でおはなしいただきました。迷うものほど前提や原則が重要になります。そういう点でも参加者にとって今後の活動に大きく役立てていただける内容となりました。

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