特定非営利活動法人 全国視覚障害児童・生徒用教科書点訳連絡会

2021年度第2回セミナーのご報告

2021年12月4日(土)、「小学部点字教科書(英語)の編集に携わって」というテーマで今年度2回目のオンラインセミナーを行いました。参加者は32名でした。

今回のセミナーでは、京都府立盲学校高等部で英語教諭をされている、野々村栄人(ののむら しげと)先生にお話いただきました。


先生は、盲学校に転勤して今年度で8年目となる。通常の教科担当に加え、学内では学年担任や進路指導の業務を担当し、学外では「科学へジャンプ」といった視覚障害児童生徒の理科教育プログラムを企画するなど活発に活動されている。

日ごろは高等部を担当されているが、初めて小学校教科書を編集することになった。その小学校の学習指導要領が令和2年度から改められたことにより、小学校用教科書が全て改訂され、まず点字教科書の元となる原典教科書が選定された。その後、点字教科書の編集、編集資料が作成された。

原典教科書の選定ポイントは、文字情報が主体で点字教科書に適していること、弱視の児童が使用する拡大文字の教科書でも読みやすいということだ。

今回選ばれた教科書は、開隆堂の「JUNIOR SUNSHINE」(5年生、6年生)だった。小学校用英語教科書が作成されるのは初めてのことで、前年度の夏から8名の編集委員が何度も集まり、熱心に編集作業を行った。

編集作業のポイントは三つ。原典教科書を元に修正、差し替え、削除が行われる。作業では、点字特有の学びを大切にしながら、原典教科書の内容を崩さないように編集していくことが求められる。修正は絵や写真などを文章化して伝える作業、差し替えは、例えばグラフを表に表わしたりすること、削除は直接学習に関連しない絵や写真を省くなど、様々な過程を経て教科書が作られていく。

特に小学校用教科書は中学・高校の教科書と比較すると極端に文字が少なく、点字教科書を製作する上でかなり頭を悩ませることが多かった。

実際の作業では、様々な絵や写真の内容に当たった。会話を聴いて、インクがにじんで文字が見えない学校の時間割表を完成させるという例では、点字では「メメ」と書いて補った。場所や位置を表わすイラスト(机の下、テーブルの上など)は、言葉に置き換えた。墨字で「写真を見て」となっている表現を、「写真の説明を読んで」のように修正した。

苦戦を強いられた例として、四季折々の様子や風景を映した写真が上げられた。墨字教科書には、まったく文字が添えられておらず、これらをどのように点字化したら良いのか。参考に、併せて教材に使用される会話を聴いてみたものの、直接ヒントを得ることができなかった。そこで、四季を言葉で補足しながらイラストを簡潔に説明し、想像してもらえるように編集した。

また、小学校教科書では、ゲーム活動も多く掲載されている。点字使用者も容易に参加できる内容のものもあれば、ポインティングゲームのように先生が英語で発した単語と一致するイラストを指さすゲームはどうすれば良いか考えを巡らせた。点字使用者にはカードを別に用意してもらい、それを探すという形の工夫を提案した。

このほか、小学生が点字を学ぶ段階を考慮し、墨字で空白部分を表わす下線を点字の空欄符号にしたり、単語のイタリックや、下線部分の情報を省くなど、数々の工夫が盛り込まれている。

今回、小学校用英語点字教科書が作成されること自体が初めてで前例がなかったことから、大きなプレッシャーを感じたという。それならば、どういう手順で点字教科書を使って学んでもらうのが良いのか想像しながら1から取り組み、英語嫌いにならないようにするという目標を見据え、工夫を重ね編集作業を終えることができたと振り返られた。

最後に、点字教科書の編集に携わられた思いから、改めて地域の学校で学ぶ児童生徒たちの点字教科書を製作されているボランティアの方々に敬意を表されこのセミナーを結んだ。

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